多くの印刷会社の1日は、スマートフォンから始まります。朝 LINE を開くと、十数件のトークが届いています。名刺500枚の見積もりがほしい人、デザインの第3版を送ってきた人、先週の DM はもう刷り上がったかと聞く人。
営業はそれを1件ずつ返していきます。用紙、サイズ、部数、マットPPの有無を聞き、価格を計算して見積もりを出し、返事を待つ。お客様が「お願いします」と言えばデータを送ってもらい、届いたデータに塗り足しがなければ、また修正をお願いします。
一つひとつは難しい作業ではありません。問題は、それがすべて同じ人に集中し、しかも1件ごとに何往復もやり取りが必要なことです。注文が増えると、営業は受注とデータ探しと進捗の返信に追われ、本当に打ち合わせが必要な大口案件に時間を割けなくなります。
そこで「お客様がサイト上で自分で仕様を選び、価格を見て、入稿して、支払いまで済ませられないか」と考える印刷会社が増えています。これを実現するのが印刷受注システムです。
一方で、よく聞く誤解が2つあります。1つは「見積システムがあるから、もうオンライン受注はできている」。もう1つは「システムを入れれば営業はいらなくなる」。どちらも導入の方向を誤らせる考え方です。理由は後ほど説明します。
この記事では、印刷受注システムとは何か、見積システムや ERP との違い、オンライン受注の流れ、必要な機能、導入期間と準備、よくある失敗の原因、まだ導入に向かない印刷会社、そして導入前後の変化を示す事例を順に解説します。
この記事のポイント
- 印刷受注システムは、見積依頼・入稿・データチェック・注文・進捗をWebサイトに集め、注文ごとに記録を残します。
- 見積システムは「いくらか」に答え、受注システムは「注文が決まった後」を担います。両者をつなげて初めて効果が出ます。
- 定型商品はそのまま注文、特殊仕様は見積依頼、常連の法人顧客はログインして専用価格で再注文。1社で複数のユーザーアカウントを作れます。
- データチェックのルール(塗り足し3mm、CMYK、300dpi など)を先に明示すると、差し戻しとやり取りが減ります。
- 導入期間は通常1〜3か月。時間がかかるのはシステムではなく価格表の整理です。
- 注文が少ない、ほぼすべてがオーダーメイドの大型案件、という印刷会社は、今すぐ導入する必要はないかもしれません。
印刷受注システムとは?
印刷受注システムとは、お客様が「仕様を選ぶ → 見積もり → 入稿 → 支払い・注文 → データチェック → 進捗確認」までをWebサイト上で完結できる仕組みです。印刷会社は管理画面でデータチェックと生産を引き継ぐため、メッセージの往復に頼る必要がなくなります。英語では Web-to-print と呼ばれます。
印刷受注システムの定義
ひと言でいえば、印刷会社専用のオンライン注文の仕組みです。一般的なネットショップとの最大の違いは、印刷物は注文ごとに「仕様もデータも違う」こと。商品を売るだけでなく、仕様の組み合わせ、価格計算、入稿、データチェックまで扱う必要があります。
たとえば名刺なら、お客様が選ぶ項目は次のようになります。
- 用紙:コート紙、マットコート紙、特殊紙
- サイズ:標準の 9×5.4cm またはオーダー
- 部数:100、200、500枚
- 加工:マットPP、箔押し、角丸
- 片面か両面か
組み合わせごとに価格もデータも変わります。一般的なショッピングカートは「商品 × 数量」しか扱えないため、こうした組み合わせに対応できません。汎用のECプラットフォームでオンライン受注を始めてもうまくいかない印刷会社が多いのは、このためです。
注意したいのは、受注システムがすべてのやり取りをなくすわけではないことです。特殊な仕様、校正が必要なもの、素材の相談が必要な注文には、やはり営業が欠かせません。システムの役割は、繰り返し発生する定型部分を引き受け、営業が本当に相談の必要な注文に時間を使えるようにすることです。
受注システム・見積システム・受注管理・ERP の役割の違い
この4つはよく混同されますが、実際には担当する工程も使う人も異なります。
| システム | 主に答える問い | 使う人 | 使うタイミング |
|---|---|---|---|
| 見積システム | この仕様でいくらか? | お客様、営業 | 注文前 |
| 受注システム | 仕様・データ・支払いをどう一度に受け取るか? | お客様、営業、データチェック担当 | 注文を決めた時点 |
| 受注管理システム | この注文はいまどこまで進んでいるか? | 営業、生産、カスタマーサポート | 注文後から出荷まで |
| ERP | 資材・スケジュール・原価・会計をどう管理するか? | 生産管理者、経理 | 社内業務 |
名刺の例で流れを追うと、お客様は見積システムで「500枚 1,000元(例)」を確認して「注文」を押し、受注システムで入稿と支払いをします。続いて受注管理システムに「データチェック中 → 生産中 → 出荷済み」と表示され、裏では ERP が用紙の在庫を引き当て、売上を記録します。
よくある間違いは、どれか1つを入れればすべてそろうと考えることです。見積もりだけで受注がなければ、お客様は価格を見た後に LINE でデータを送ることになります。ERP だけで受注がなければ、お客様とのやり取りはまったく減りません。
LINE・メールで受注すると何が問題になるのか?

よくある問題は3つです。データが散らばって最終版がわからない、仕様を手で転記してミスが出る、お客様からの進捗の問い合わせが続く。注文が少ないうちは記憶で回せますが、増えてくるとこの3つが営業の時間の大半を奪い、刷り直しや納期遅れの主な原因になります。
データがあちこちに散らばる
データが散らばるとは、1件の注文のデザインデータが LINE、メール、クラウドのリンク、ときには USB メモリに分かれていて、「どれを印刷すべきか」を確実に判断できる場所がない状態です。
たとえば、お客様が月曜に LINE で第1版、火曜にメールで第2版を送り、水曜に「電話番号を直してください」と第3版を送ってきたとします。営業が忙しくてメールの第2版を製版に回してしまえば、刷り上がりは間違ったものになります。
こうなるのは、チャットツールがもともとファイル管理のために作られていないからです。LINE のファイルには保存期限があり、メールの添付はばらばらのスレッドに残り、版の管理は人の記憶頼みになります。
このミスのコストは明確です。刷り直しの用紙代、印刷工程、残業代、そしてお客様からの信頼。ミスを防ぐために印刷前にもう一度電話で確認する印刷会社も多く、結局やり取りが1回増えます。
よりよい方法は、データを注文にひも付けることです。お客様は注文の中で入稿し、修正版も同じ注文にアップロードします。システムは版ごとの日時を記録し、生産側にはデータチェックを通った最新版だけが表示されます。
仕様を手作業で転記する
仕様の転記とは、営業がトークの中から用紙、サイズ、部数、加工を拾い出し、作業指示書や Excel に手で入力する作業です。
たとえばお客様が「前回と同じで、今回は1000枚、PPはなしで」と書いてきたとします。営業はまず「前回」がどの注文かを探し、変更点を作業指示書に反映しなければなりません。「PPはなし」を見落とせば、すべて刷り直しです。
転記ミスは営業が不注意だから起きるのではありません。同じ情報が何度も人の手を渡るからです。お客様が伝え、営業がメモし、作業指示書に入力され、生産が読む。受け渡しが1回増えるごとに、ミスの機会も1回増えます。
海外の業界の知見でも、注文画面をオンライン化しても、注文データがそのまま作業指示書にならなければ、生産側で仕様を入力し直すことになり、問題は場所を変えただけで消えないと指摘されています。
だからこそオンライン受注で大切なのは、お客様が選んだ仕様をそのまま作業指示の内容にし、途中で誰も打ち直さないことです。
お客様から進捗の問い合わせが続く
進捗の問い合わせは、注文したお客様が今どこまで進んでいるかわからず、メッセージや電話で聞くしかないことから生まれます。
たとえば会社の総務担当が上司に「イベントの DM はいつ届く?」と聞かれれば、印刷会社に LINE を送るしかありません。営業は現場に確認しに行き、返信する。1往復で30分かかることもあり、1日に十数件あれば数時間になります。
問題は、進捗情報が印刷会社の中にしかなく、お客様から見えないことです。情報が見えなければ、お客様は「聞く」以外に手段がありません。
ただし、通知は多ければよいわけではありません。細かい工程ごとに通知すると、お客様はわずらわしく感じ、大事な通知まで見落とすようになります。
通知はいくつかの節目に絞るのがおすすめです。データチェック完了または要修正、生産開始、出荷(送り状番号付き)。お客様はいつでもログインして注文状況を確認でき、営業に聞く必要がなくなります。
オンライン受注の全体の流れは?

オンライン受注は通常6つのステップに分かれます。仕様選択、オンラインデザインまたは入稿、即時見積もり、注文・支払い、データチェック、生産・出荷です。最初の4つはお客様が自分で行い、後の2つは印刷会社が管理画面で対応します。お互いに同じ注文を見ながら進められます。
仕様選択 → オンラインデザインまたは入稿 → 即時見積もり → 注文・支払い → データチェック → 生産・出荷
先に支払いか、先にデータチェックか?
導入時にいちばん多い質問です。先に支払いにすると注文は確実になりますが、データが通らなければ返金や差額の請求が必要になります。先にデータチェックにするとお客様は安心ですが、チェック後に支払われない注文も一部出てきます。
名刺やステッカーのように単価が低く、データの問題が少ない商品では、多くの印刷会社が「先に支払い、後でチェック」を選び、データが通らなければ同じ注文で再入稿してもらいます。大判出力やパッケージのように単価が高く、データが複雑な商品では「先にチェック、確認後に支払い」がよく選ばれます。
正解は1つではなく、商品とお客様によります。大切なのは、ルールを事前にサイトに明記し、営業がその都度決めないことです。
まず商品の種類で2つに分けて設定し、1〜2か月運用した後に差し戻し率と未払いの割合を見て調整するのがおすすめです。
定型商品:仕様を選んでそのまま注文
定型商品とは、仕様が決まっていて、ルールで価格を計算できる商品です。名刺、DM、ステッカー、ポスターなどが当てはまります。
お客様は用紙、サイズ、部数、加工を選ぶとすぐに価格が表示され、入稿すればそのまま支払えます。営業とのやり取りは必要ありません。
定型商品から始めるのが効果的です。注文件数が最も多く、単価が最も低く、営業の時間を最も使う注文だからです。これをシステムに任せると、時間の削減がいちばんはっきり表れます。
ただし「定型に見えて例外が多い」商品には注意が必要です。たとえば、いつも特殊な箔押しを指定するお客様の名刺を無理に定型商品に入れると、価格の誤りや製造できない注文が出てきます。
第1段階では、仕様の組み合わせが数十通り以内で、価格ルールがはっきりしている商品だけを載せ、それ以外はひとまず見積依頼にするのがおすすめです。
特殊仕様:見積依頼から注文へ
特殊仕様とは、決まったルールで価格を出せない注文です。特殊サイズのパッケージ、珍しい用紙、校正が必要な制作物などがあります。
この場合は、お客様にサイト上で見積依頼フォームを送ってもらいます。品目、サイズ、部数、要望を書き、参考データを添付できます。営業は管理画面で依頼内容をすべて確認して見積もりを出し、お客様が承認すれば見積依頼がそのまま注文に変わります。入力し直す必要はありません。
こうすれば特殊な依頼も記録に残り、トークの中に埋もれません。営業も、最初に基本仕様を何度も聞き直す必要がなくなります。
見積依頼フォームの項目は多くしすぎないことが大切です。項目が多いとお客様は途中でやめて、LINE に戻ってしまいます。必要なのは品目、サイズ、部数、納期、要望くらいです。
「システムの選択肢にない仕様はすべて見積依頼」のようなシンプルな判断ルールを決めておくと、お客様も営業も、どの注文がどちらの流れになるかがはっきりします。
法人の常連顧客:ログインして専用価格で再注文
法人の常連顧客とは、長く継続して取引している企業です。チェーン店、学習塾、企業の総務部門などが当てはまります。
ログインすると自社専用の価格が表示され、よく頼む商品は過去の注文から「もう一度注文」でき、毎回仕様を選び直す必要がありません。1社で複数のユーザーアカウントを作れるので、たとえば各店舗の店長がそれぞれ注文し、本部はすべての注文を確認できます。
法人顧客が重視するのは、価格の安さよりも「手間がかからない」「間違いがない」ことが多いものです。前回の仕様でそのまま再注文できれば、確認が1回減ります。
なお、現在のシステムには月締め請求の機能がなく、法人顧客も注文ごとの支払いになります。月締めに慣れたお客様が多い場合は、導入前に説明の仕方を考えておきましょう。
まずは注文頻度の高い数社に試してもらい、意見を集めてから他のお客様に広げるのがおすすめです。
| 注文の種類 | 向いている商品 | 価格の決まり方 | 営業の対応 | おすすめの導入順 |
|---|---|---|---|---|
| 定型商品 | 名刺、DM、ステッカー、ポスター | 仕様からシステムが自動計算 | 通常は不要 | 第1段階 |
| 特殊仕様 | パッケージ、特殊紙、校正が必要なもの | 営業が見積もり | 必要 | 第1または第2段階 |
| 法人の再注文 | 企業が定期的に発注する印刷物 | 顧客専用価格 | 初回設定時のみ | 第2段階 |
印刷受注システムに必要な機能は?

最低限必要な機能は6つです。仕様別の価格計算、入稿またはオンラインデザイン、データチェックのステータス、進捗通知、決済と電子インボイス、管理画面での作業指示管理。このうち価格計算、入稿、データチェックのステータスは第1段階で欠かせない機能で、残りは注文量に合わせて追加していけます。
仕様別の価格計算
仕様別の価格計算とは、用紙、サイズ、部数、加工から自動で価格を出す機能です。
たとえば名刺500枚・両面・マットPPなら、設定したルールに沿ってシステムが価格を合算します。お客様が1,000枚に変えれば価格はすぐに再計算され、営業に聞く必要はありません。
この機能がないと、サイトには「お電話でお見積もり」としか書けず、お客様は LINE に戻ってしまいます。海外の業界の知見でも、価格がリアルタイムで更新されないことが、決済前に注文をやめてしまう主な原因の1つとされています。
第1段階で必須の機能です。価格ルールの整理方法は、印刷見積システムの選び方をご覧ください。
入稿またはオンラインデザイン
入稿機能は、お客様が完成データを注文に添付できるようにするものです。オンラインデザインは、デザインデータを持っていないお客様が、テンプレートを使ってサイト上でレイアウトできるようにするものです。
たとえばデザイン会社は PDF の完成データをそのまま入稿します。デザインソフトを持っていない小さなお店のオーナーなら、サイトで名刺のテンプレートを選び、自分の名前と電話番号に書き換えるかもしれません。
入稿は必須で、オンラインデザインはお客様の層しだいです。お客様の多くがデザイン会社や企業のマーケティング部門なら、オンラインデザインはあまり使われないので、後回しでかまいません。
注意点として、オンラインデザインのテンプレート自体を印刷の仕様(塗り足し、CMYK など)どおりに作っておく必要があります。そうしないと、お客様が作ったデータもやはり差し戻しになります。
データチェックのステータス
データチェックのステータスとは、注文ごとに「チェック待ち・要修正・チェック完了」を表示し、差し戻しの理由を明記する機能です。
たとえばデータチェック担当が、画像が 72dpi しかないことに気づいたら、ステータスを「要修正」にし、理由に「画像の解像度が不足しています。300dpi 以上の画像をご用意ください」と書きます。お客様は通知を受け取り、同じ注文に新しいデータをアップロードします。
ステータスがないと、差し戻しのやり取りがまたトークに戻り、データの版も再び散らばってしまいます。
海外の業界の知見でも、専門家ではないお客様が入稿するデータの品質は不安定で、稼働後もずっと続く課題だとされています。データチェックのルールと差し戻しの説明文は、システムと一緒に準備しておきましょう。
進捗通知
進捗通知とは、注文のステータスが変わったときに、メールや SMS で自動的にお客様へ知らせる機能です。
たとえば「データチェックが完了しました」「出荷しました。送り状番号 xxx」。お客様は問い合わせなくても次の段階がわかります。
前述のとおり、通知は節目に絞ります。注文がまだ多くない初期は、お客様が自分で注文状況を確認できれば十分で、通知は第2段階で細かく調整すればかまいません。
決済と電子インボイス
オンライン決済なら、お客様は注文と同時に支払いを済ませ、システムが規定に沿って電子発票(台湾の電子インボイス)を発行します。
たとえばお客様がカードで支払うと、システムが自動でインボイスを発行してメールで送るため、経理が手作業で発行する必要はありません。法人顧客は注文時に統一編号(台湾の事業者番号)を入力できます。
オンライン決済がないと、振込後に手作業で照合することになり、注文が増えるほど経理の負担が重くなります。
前述のとおり、現在のシステムには月締め請求の機能がなく、法人顧客も注文ごとの支払いです。
作業指示の管理
作業指示の管理とは、注文の仕様をそのまま生産用の作業指示に変え、社内のスタッフが進捗を更新できるようにする機能です。
たとえばデータチェックを通った注文は、生産側の作業リストに自動で表示され、仕様、部数、データがすべてそろっています。生産スタッフがトークの履歴を見返す必要はありません。
これが「注文画面のオンライン化」で本当に人手を減らすための鍵であり、受注管理システムが役割を果たす部分です。注文画面だけで管理画面がなければ、前に述べた「問題が場所を変えただけ」の状態になります。
ECサイト全般の機能の考え方は、ECサイトに必要な機能とはも参考にしてください。
印刷受注システムの導入期間と準備は?

私たちの経験では、導入には通常1〜3か月かかります。時間の大半はシステムの設定ではなく、価格表とデータチェックのルールの整理に使われます。海外の業界の知見でも同じような幅で、中規模のオンライン受注サイトは2〜3か月で稼働することが多いとされています。
導入スケジュールの分け方
導入スケジュールとは、導入を決めてから本稼働までの各段階にかかる時間です。
下の表はよくある分け方です。上の3行の週数は海外の業界の参考値で、全体の期間は提昇科技の実際の導入経験に基づいています。
| 段階 | やること | 目安の期間 | 主な担当 |
|---|---|---|---|
| 計画 | 最初に載せる商品、支払いとデータチェックのルールを決める | 2〜3週間 | 経営者、営業責任者 |
| 構築とデータ整理 | 価格表のデジタル化、商品設定、決済とインボイスの設定 | 5〜9週間 | 見積もりに詳しい担当者 |
| テストと稼働 | 実際の注文でテスト、社員とお客様への案内 | 1〜2週間 | 全員 |
| 全体(提昇科技の経験) | 商品数と連携範囲によって変わる | 1〜3か月 | — |
期間を左右するのは主に3つです。載せる商品の数、価格表の整理の度合い、既存システムとの連携の有無。価格表がすでに Excel で整理されている印刷会社は、かなり早く進みます。
注意したいのは、「システムができた」ことと「稼働できる」ことは違う、という点です。設定自体は数週間で終わることもありますが、価格を1つずつ確認しないまま公開すると、お客様が注文してから計算の誤りに気づくことになり、かえって面倒です。
公開前に、過去1か月分の実際の注文をシステムで計算し直し、もとの見積もりと一致することを確かめてから公開するのがおすすめです。
まず定型商品から始める
定型商品から始めるとは、第1段階では注文が最も多く、仕様が最も固定された数品目だけを載せることです。
名刺、DM、ステッカーなどです。これらは注文件数の大部分を占め、価格ルールも最もはっきりしているため、整理が最も早く済みます。
全商品を一度に載せると見た目は充実しますが、1品目増えるごとに確認する価格表も1つ増え、公開日がどんどん延びていきます。
まずは3〜5品目を選び、1〜2か月ほど安定して運用してから、問い合わせの多さに応じて他の商品を追加するのがおすすめです。
価格表と価格ルールを整理する
価格表のデジタル化とは、用紙、サイズ、部数、加工の価格を、システムが読めるルールに整理することです。
たとえば今の価格表には「名刺500枚 X元」としか書かれていないかもしれません。しかしシステムには、用紙を変えたらいくら加算か、マットPPならいくら加算か、1,000枚ならどう計算するかが必要です。こうしたルールの多くは、ベテラン営業の頭の中にしかありません。
ここが導入全体で最も時間のかかる工程になることがほとんどです。海外の業界の知見でも、商品が多いほど価格ルールの維持が難しくなり、定期的な見直しが必要だとされています。
整理するときは、品目、用紙、サイズ、部数の段階、加工、加算方法、最低発注数といった決まった列を使うのがおすすめです。
データチェックのルールを決める
データチェックのルールとは、お客様のデータがどの条件を満たせば生産に回せるか、満たさない場合にどう対応するかを決めたものです。
よくあるチェック項目は次のとおりです。多くの印刷会社の入稿ガイドにも同様の条件が書かれています(参考:台湾の印刷会社の入稿注意事項、中国語)。
- 四辺に塗り足し3mm、背景は塗り足し線の外まで伸ばす
- 重要な文字やロゴは仕上がり線から3mm以上内側に配置
- カラーモードは RGB ではなく CMYK
- 画像の解像度は実寸で 300dpi 以上
- 文字はアウトライン化するか、PDF にフォントを埋め込む
- 箔押しや部分ニスなどの加工は、K100 の版下データを別に用意
入稿形式をもっとそろえたい場合は、PDF/X での書き出しを求める方法もあります。印刷データ交換用の PDF の国際規格で、フォントの埋め込みと仕上がり範囲の指定が求められます。
注意点として、ルールが厳しすぎると一般の小さなお店のお客様はデータを作れず、ゆるすぎるとデータチェック担当が修正に多くの時間を取られます。お客様の層で分け、デザイン会社には完全なルールを、一般のお客様にはオンラインのテンプレートを用意して、データの問題を元から防ぐのがおすすめです。
また、差し戻しの説明はお客様にわかる言葉で書きましょう。「解像度不足」より「画像がぼやけています。もっと鮮明な元の写真に差し替えてください」のほうが、そのとおりに直しやすくなります。
印刷受注システム導入でよくある失敗の原因
よくある失敗の原因は技術ではありません。社内に担当者がいない、注文画面と管理画面がつながっていない、お客様が相変わらず LINE でデータを送ってくる、の3つです。海外の業界調査でも、すべて導入し終えた組織の中に、成果が期待に届かなかったと感じているところが少なくないことが示されています。
社内に担当者がいない
導入期間中、印刷会社の中にデータを整理し、ベンダーからの質問に答え、最終判断をする担当者がいない状態です。
同じ調査では、回答者の41%が「導入を任せられる能力と時間のある社内人材を見つけるのが難しい」と答えています。その結果、価格表の整理が終わらず、公開日が何度も延びてしまいます。
始める前に担当者を決め、「手が空いたら」ではなく、毎週決まった時間をこの作業に充てられるようにしましょう。
注文画面はオンライン、管理画面は手作業のまま
注文画面のオンライン化で、お客様はサイトから注文できるようになります。しかし注文が入るたびに誰かが仕様を作業指示書に打ち直しているなら、人手はほとんど減っていません。
これは海外の業界の知見で最も多く指摘される問題です。注文画面は自動化されたのに管理画面がつながっておらず、仕事が場所を変えただけになっています。
「注文が作業指示になる」流れは、後回しにせず第1段階から組み込みましょう。
お客様が相変わらず LINE でデータを送ってくる
お客様の習慣は一晩では変わりません。同じ調査では、回答者の45%が「お客様はいまもメールや FTP でデータを送ってくる」と答え、オンラインシステム経由は31%にとどまりました。
営業が「サイトから注文してください」と言いながら、いつもどおり LINE でデータを受け取っていれば、お客様はいつまでも変わりません。
移行期間を設けましょう。たとえば2か月間は LINE とサイトの両方で受け付け、営業が LINE で注文を受けたら、その場でお客様のサイトアカウントを作り、一度操作を案内します。移行期間が終わったら、定型商品はすべてサイト経由にします。
まだオンライン受注の導入に向かない印刷会社は?
すべての印刷会社が今すぐ導入すべきとは限りません。注文がとても少ない、ほとんどがオーダーメイドの大型案件、毎回価格を交渉し直している、という印刷会社では、導入して減らせる時間は限られます。まずは価格ルールとデータチェックの手順を整理しておくだけで十分です。
注文が少なく、営業で十分に回せている
1日の注文が数件で、営業が LINE で余裕を持って対応できているなら、システムで減らせる時間は少なく、価格表の整理の手間のほうが大きくなります。
今できるのは、よく出る商品の価格とデータチェックのルールを文書にまとめておくことです。注文が増えてから導入しても遅くありません。
ほとんどがオーダーメイドの大型案件
パッケージデザイン、展示会の出力物、上製本などが中心の印刷会社では、案件ごとに素材、校正、構造の相談が必要で、決まった仕様にするのが難しくなります。
こうした印刷会社には、完全なオンライン注文よりも「オンライン見積依頼+入稿の受付」だけを用意するほうが向いています。
注文のたびに価格を交渉し直している
お客様の多くが価格交渉を経て発注する場合、自動で出る見積もりがかえって混乱のもとになります。
この場合は、法人の専用価格から始める方法があります。継続取引のお客様は合意済みの価格でログインして注文し、それ以外のお客様は引き続き見積依頼で対応します。
事例:ある印刷会社がオンライン受注を導入して変わったこと
ある印刷会社は、オンライン受注システムを導入してから3か月以内に累計売上100万台湾ドルを達成し、人件費を50%削減しました。導入前の状況、進め方、つまずいた点、結果の順に紹介します。
導入前:営業がメッセージで受注していた
導入前、この印刷会社の注文は主に営業が LINE と電話で受けていました。
注文ごとに仕様を聞き、見積もりを出し、データを受け取り、版を確認し、作業指示書を手で作っていました。営業の時間の大半が見積もりと仕様確認に使われ、人件費がなかなか下がりませんでした。
進め方:まず定型商品、その後に法人アカウント
導入はいくつかのステップに分けて、全体を1〜3か月で完了しました。
- 注文の多い定型商品を選び、価格表と価格ルールを整理する。
- データチェックのルールを書き出し、お客様が入稿時にデータの条件をわかるようにする。
- お客様がサイト上で自分で仕様を選び、価格を確認し、入稿・注文できるようにする。
- 特殊仕様はオンライン見積依頼に切り替え、見積もり後にそのまま注文に変える。
- 法人顧客にアカウントを発行し、1社で複数のユーザーアカウントを使えるようにする。
つまずいた点:価格表の整理とお客様の習慣
多くの印刷会社と同じく、最も時間がかかったのは、これまでの見積もりのやり方をシステムが計算できるルールに整理することでした。
もう1つの課題は、メッセージに慣れたお客様にサイトから注文してもらうことで、移行期間中は営業が1社ずつ案内する必要がありました。
結果:3か月で売上100万台湾ドル、人件費は半分に
稼働後、お客様は仕様の選択、価格の確認、入稿、注文まで自分で済ませられるようになり、営業が1件ずつ見積もりと仕様確認をする必要がなくなりました。
その結果、3か月以内に累計売上100万台湾ドルを達成し、人件費は50%削減されました。
印刷受注システムのよくある質問
印刷受注システムと印刷業向け ERP の違いは?▼
受注システムはお客様向けで、サイト上で仕様を選び、入稿し、注文してもらうためのものです。ERP は社内向けで、生産スケジュール、資材、原価、会計を管理します。
別々に導入できます。多くの印刷会社は先にオンライン受注を稼働させ、軌道に乗ってから ERP との連携を検討します。
印刷受注システムの導入にはどのくらいかかりますか?▼
提昇科技の経験では、通常1〜3か月です。
期間を左右するのは、最初に載せる商品の数、価格表の整理の度合い、既存システムとの連携の有無の3つです。価格表が整理済みの印刷会社はかなり早く進みます。
導入費用は何によって変わりますか?▼
主に、商品と価格ルールの複雑さ、オンラインデザインのテンプレートが必要か、ERP など既存システムとの連携が必要か、アカウント権限の要件によって変わります。
定型商品から始めて、3段階で印刷受注をオンラインへ
印刷受注システムの目的は、営業を置き換えることではありません。定型の部分をお客様自身に完了してもらい、営業が本当に相談の必要な注文に時間を使えるようにすることです。導入すべきかどうかは、3つの点で判断できます。注文のうち定型商品の割合が高いか、営業が1日の大半を見積もりと仕様確認に使っているか、お客様からの進捗の問い合わせが多いか。
3つとも当てはまるなら、次の3段階で進めることをおすすめします。
- 第1段階:定型商品を3〜5品目選び、価格表とデータチェックのルールを整理し、価格計算、入稿、データチェックのステータス、作業指示を整える。
- 第2段階:オンライン見積依頼と法人アカウントを追加し、特殊仕様と法人の再注文もオンライン化する。
- 第3段階:注文量に応じてオンラインデザインのテンプレートや細かい進捗通知を加え、ERP との連携を検討する。
印刷会社のオンライン受注の進め方は、印刷業向けECソリューションをご覧ください。Webサイト制作の一般的な期間は、Webサイト制作にかかる期間も参考にしてください。
印刷のオンライン受注を始めたい方は、無料相談を予約してください。商品と業務フローに合わせて、最初に載せる商品と導入の進め方をご提案します。



